商品写真のAI加工による返金要求問題|中国の事例、法的論点、予防策
中国向け/越境ECを含むEC事業者にとって、返品・返金対応は「顧客体験」を左右する一方で、不正の入り口にもなりやすい領域です。
いま中国では、AIで加工・生成した“破損写真・動画”を根拠に返金を求める動きが報じられ、売り手・プラットフォーム双方の運用コストを押し上げています。
特に「写真が証拠になる」という暗黙の前提が揺らぐことで、誠実な購入者にも影響が波及しやすい点が重要です。
AI画像加工による返金要求は“中国ECの信頼コスト”を押し上げている
まず押さえるべきは、この問題が単なる「一部の悪質ユーザー」ではなく、ECの信頼基盤(証拠と判断プロセス)に直接負荷をかける点です。
従来、破損や品質不良の申し立ては写真・動画で十分に確認できる、という運用が一般的でしたが、生成AIの普及で「画像=事実」の前提が崩れやすくなっています。
影響は売り手だけに留まりません。
プラットフォーム側は審査強化や例外処理が増え、結果として対応が遅くなったり、追加確認が増えたりします。
そのしわ寄せが、誠実な消費者の利便性低下として返ってくる構造になりがちです。
本記事では、以下に絞って整理します。
①中国で報じられた事例
②中国法制上の論点(断定を避け、報道ベースで整理)
③現実的な予防策(売り手・プラットフォーム)
なお、不正の「作り方」や手順の詳細には踏み込みません。
中国の事例:AI加工写真・動画で「破損・劣化」を装う返金要求
報道では、大型商戦期(ダブルイレブン期)に、AIで加工した“破損画像”が返金申請に使われるケースが問題視されています。
South China Morning Post は、AI生成・加工画像がオンライン店舗の返金判断を揺さぶっている、といった趣旨で伝えています。
象徴的な実例として、AIで“死んだカニ”の画像・動画を捏造して返金を求め、当局が処分した旨が China Dailyで報じられています。
この種の事例は「画像・動画を提出すれば通る」という期待を逆手に取ったものとして、業界の警戒を強めました。
またWIREDは、売り手やCS担当者がSNS上で「不自然な申請画像」を共有し始めている状況や、対応工数が増えている実態を伝えています。
重要なのは、被害額の大小よりも、“審査の前提”を崩してスケールし得る点です。
なぜ通るのか:返金フローが「画像提出」に依存している構造
多くのECでは、スピードと摩擦低減のために「写真があれば判断できる」という前提で返金・返品を設計してきました。
ところが生成AIの普及で、見た目の整った“証拠画像”が低コストで作れてしまうと、フロー全体が脆弱になります。
WIREDは、まさにこの「写真依存」の弱点が突かれていると整理しています。
狙われやすいのは、低単価・返品不要・即時返金が起きやすい領域です。
報道では、生鮮や割れ物、低価格帯の日用品など、返品の実務負担を避けて返金しがちなカテゴリが例に挙げられています。
一方で売り手側には検知限界もあります。
AI真偽判定ツールの導入・運用コスト、誤判定によるクレーム増、プラットフォーム規約との整合など、現場が背負う論点が多いからです。
China Dailyでも、技術的対策の必要性が語られていますが、万能解はまだ遠いのが実情です。
法的論点:中国で「返金要求」はどこから違法・不正になり得るか
第一に、AIで虚偽の画像・動画を作って返金を得る行為は、「証拠を偽造して相手を欺く」性質が強まると指摘されています。
新京報(贝壳财经)の取材記事でも、AI偽造は通常の不当な「仅退款」より悪質になり得る、という趣旨の専門家コメントが紹介されています。
第二に、行政処分・摘発の示唆です。
China Dailyは、AI偽造動画で返金を求めた件で行政拘留に言及しており、当局が「小額でも看過しない」姿勢を示した事例として受け止められています(報道ベース)。
第三に、AI生成合成コンテンツの「標識(ラベル)」制度です。
2025年9月1日施行として報じられている「人工智能生成合成内容标识办法」では、AI標識の削除・改ざん等を禁じる旨が伝えられています。
返金不正そのものを直接取り締まる条文として単純化はできませんが、“AI生成物であることを隠す”行為の規律という点で、関連領域のルール整備が進んでいることは押さえておく価値があります。
予防策:売り手・プラットフォームが取れる現実的な対策
売り手側は、AIの真偽判定に全面依存するよりも、まずは「証拠の多層化」が現実的です。
高リスク商品(生鮮、割れ物、精密品など)では、出荷時の連続写真、梱包状態、配送ラベルと外装の整合が取れる記録など、検証可能な“追加証跡”を標準化しておくと、争点が「申請画像の真偽」一択になりにくくなります。
次に、申請パターン監視です。
短期間での集中申請、同種画像の反復、不自然な説明の不整合など、行動データで“怪しさ”を拾い、追加確認・段階審査につなげます。
ここで重要なのは、誠実顧客を萎縮させないCSテンプレの整備で、「確認のお願い」を丁寧に設計することです。
プラットフォーム側は、真正性アラート、再提出導線、審査の段階化(軽微は迅速、高額・高頻度は厳格)といった“仕組み”の整備が鍵になります。
China Dailyでも、プラットフォームの技術的識別強化が提起されています。
参考として世界の流れを見ると、返品・返金の不正対策でAIを導入する動きがあります。
Reutersは、UPS傘下の返品処理事業がAIで不審返品をフラグし、人手監査につなげる取り組みを報じています。
中国でも同様に、自動化+人手審査のハイブリッドが現実解になりやすいです。
まとめ:チェックリスト(導入優先度順)
まずやる:高リスクカテゴリに「追加証跡」を標準搭載し、返金判断を“画像一発勝負”にしない/審査を段階化する。
次にやる:頻度・同一性・不整合などのパターン検知で、追加確認に自然につなげる(CS文言も整える)。
最後に:ツール導入は誤判定前提で、人手審査と併用する(グレーはエスカレーション設計を決めておく)。
今後、生成AIが高度化するほど「写真だけで裁く」モデルは苦しくなります。
だからこそ、証拠の多層化(記録の設計)と、審査の段階化(運用の設計)を先に整えることが、越境ECを含む対中ビジネスの“信頼コスト”を抑える近道になります。


