地理的に近く、文化的な共通点も多い韓国。しかし、働き方の実態を詳しく見ていくと、日本とはかなり異なる部分が随所に見えてきます。

労働時間、雇用の慣行、賃金制度まで、一次情報をもとに日韓の働き方を多角的に比較してみましょう。

韓国の労働時間は依然として世界トップクラス

まず押さえておきたいのが、労働時間の実態です。OECDのデータによると、2023年の韓国の年間平均労働時間は1,872時間でした。OECD加盟国の中でペルー、メキシコ、コスタリカ、チリに次ぐ5位という水準であり、先進国の中では突出した長さです。

一方、日本の状況はどうでしょうか。OECDの同統計では、日本の年間労働時間は1,600時間台前後で推移しており、OECD平均(1,700時間台)と同水準かやや下回る位置に収まっています。「日本人は働きすぎ」というイメージが強い方も多いかもしれませんが、数字で見ると韓国の方がより長時間労働の傾向が顕著です。

なお、韓国開発研究院(KDI)は2023年に公表したレポートで、OECD統計の数字は自営業者や短時間労働者も含むため単純な比較には注意が必要としつつも、「それらを調整しても韓国の労働時間は相対的に長い」と結論づけています。

「週52時間制」導入でも残る長時間労働の課題

韓国でも長時間労働への問題意識は高まっており、2018年7月に「改正勤労基準法」が施行されました。それまでの韓国では、法定労働時間(週40時間)+時間外労働(週12時間)に加え、休日労働が「週」に含まれないと解釈されていたため、事実上は週68時間まで働かせることができました。

改正によって「1週」を休日を含む7日と明確に定義し、延長労働を含む1週間の上限を52時間に制限。違反した使用者には2年以下の懲役または2,000万ウォン(約200万円)以下の罰金が科されるようになりました。

この制度は規模に応じて段階的に適用が拡大され、最終的に2022年1月から従業員5人以上のすべての事業所に適用されました。2018年の制度施行後、韓国の年間平均労働時間は2018年の約1,993時間から2021年には約1,915時間へと減少するなど、一定の効果は見られています。

しかし、2023年には政府が週の労働時間の管理単位を「週」から「月・四半期・半年・年」単位に拡大する制度改編案を発表。週に集中して長時間働き、後でまとめて休む仕組みを導入しようとしたところ、労働界や若者から強い反発を受け、再検討を余儀なくされました。労働界からは「労働権・健康権・休息権なき三無の残業法」と批判の声が上がったほどです。

「IMF危機」が変えた雇用文化と転職観

働き方の違いは、労働時間だけではありません。雇用の慣行も両国は大きく異なります。

日本では今も「新卒一括採用」が根強く残り、企業はポテンシャルを重視して採用し入社後に育成するスタイルが一般的です。韓国もかつては終身雇用・年功序列型の採用慣行を持っていましたが、1997年のアジア通貨危機(いわゆる「IMF危機」)が大きな転換点となりました。

日本銀行の調査レポートによると、1997年末から1998年にかけての通貨危機の過程で、韓国政府・企業・労働組合の三者協調のもと、常用雇用者の解雇を可能にする「整理解雇制」が導入されました。また、派遣労働制が1998年2月に新たに導入されるなど、労働市場の流動化が一気に進みました。

こうした構造改革を経て、韓国では職務・スキルベースの採用と転職が一般的となっています。より良い条件の職場へ積極的に移っていく文化が根付いており、長期雇用を前提とした日本とは対照的な労働市場になっています。

 日本にはない「週休手当」という独自の仕組み

賃金制度にも、日韓には注目すべき違いがあります。ジェトロ(日本貿易振興機構)が2022年に公表した分析レポートによると、韓国には日本にはない「週休手当」という制度が存在します。週15時間以上働く従業員が皆勤した場合、1日分の手当を追加支給しなければならないというものです。

例えば週5日間、3時間ずつ働いた従業員に対しては、3時間分の週休手当を支払う必要があります。つまり15時間の労働に対し、20%増の18時間分の賃金を支払うことになります。週休手当を加味して韓国の最低賃金を換算すると、2023年は時給9,620ウォンの20%増に相当する1万1,544ウォン(約1,212円)となりました。これは当時の東京都の最低賃金(2022年度1,072円)を上回る水準です。

また、日本が都道府県別に最低賃金を決める方式を採る一方、韓国は全国一律であるという点も大きな違いの一つです。

年功型賃金はむしろ韓国に色濃く残っている

「韓国は転職が盛んだから年功序列はない」と思われがちですが、賃金制度をみると実態は異なります。

ジェトロが引用した韓国経営者総協会のデータによると、2020年時点で勤続30年以上の従業員の月間賃金総額は勤続1年未満の約2.95倍に達しており、EU15か国平均や日本と比べても年功による賃金格差が大きいことがわかっています。

長期勤続による賃金格差が大きいがゆえに、若手のうちから転職で収入アップを図る動機が生まれやすい構造にもなっています。

変わりつつある若者の意識

長時間労働が常態化してきた韓国ですが、若い世代の価値観は確実に変わり始めています。2023年の労働時間制度改編案に対して若者を中心に強い反発が起きたことは、その象徴的な出来事でした。

KDIの分析によれば、韓国の年間労働時間は2015年の2,083時間から2023年の1,872時間へとこの約8年間で200時間以上減少しており、長期的には着実に短縮の方向に向かっています。

ワークライフバランスを重視する意識は日韓の若者に共通して広がっており、制度や社会構造の変化は時間がかかるものの、方向性は明確に見えてきています。

まとめ:近くて遠い、日韓の働き方

日本と韓国は地理的・文化的に近い隣国ながら、働き方を比べると多くの違いがあります。

日本が「新卒一括採用・長期雇用・緩やかな年功制」というモデルを維持してきた一方、韓国は1997年のIMF危機を境に「流動的な労働市場・転職文化・急勾配の年功賃金」という独特の形を歩んできました。どちらが優れているという話ではなく、それぞれの歴史的背景や社会構造が働き方を形づくっているのです。

韓国との仕事でつながる機会が増える中、こうした違いを知っておくことはビジネスの現場でも必ず役に立つはずです。

参考資料

OECD 「Hours Worked 統計データ

KDI(韓国開発研究院)「OECD Average Annual Hours Worked: Comparative Analysis and Implications」2023年

労働政策研究・研修機構(JILPT)「労働時間規制の上限を原則週52時間へ(韓国:2018年7月)」2018年7月

JILPT「雇用労働部、労働時間制度改編案を発表(韓国:2023年4月)」2023年4月

ニッセイ基礎研究所「韓国政府『週52時間勤務制』の見直しを推進」2023年1月

日本銀行「通貨危機発生以降における韓国の労働市場の動向」2002年

ジェトロ「韓国の賃金水準、日本並みに」2022年