「なぜ日本人はこんなに働くのか」——そう問われると、多くの日本人は答えに詰まるかもしれません。長時間労働や有給消化率の低さは、国際的にも広く知られた日本の特徴です。

では、世界最大の経済大国アメリカでは、人々はどのように働いているのでしょうか。今回は日本とアメリカの働き方を多角的に比較し、その背景にある文化や制度の違いに迫ります。

労働時間——「長く働く=頑張っている」は日本だけ?

OECDのデータによると、日本の年間平均労働時間は2020年時点で約1,598時間と、OECD平均(約1,687時間)を下回っています。一方、アメリカは約1,791時間(同年)と、日本を大きく上回っています。数字だけを見れば「アメリカ人のほうがよく働く」と映るかもしれません。ところが、その中身は大きく異なります。

なお、OECDは同データについて「国際比較には適さず、各国内のトレンド把握を目的とする」と注記しており、単純な優劣比較には慎重さが必要です。

日本では「会社にいる時間=仕事への姿勢」と見なされる文化が根強く、定時を過ぎても席を立てない雰囲気が多くの職場に残っています。いわゆる「時間ベース」の評価文化です。対してアメリカでは成果主義が基本で、仕事が終われば定時前に退社しても誰も後ろめたさを感じません。効率よく成果を出すことがプロフェッショナリズムとして高く評価されます。

また、アメリカの労働時間の長さには、法定有給休暇がないことや副業・複数雇用の多さも影響しています。個人がキャリアを自ら組み立てる文化のなかで、長く働かざるを得ない実態も一部に存在するのです。

有給休暇——「取れる権利」と「取れる文化」の差

厚生労働省が2024年12月に公表した「令和6年就労条件総合調査」によると、2023年の年次有給休暇取得率は65.3%と、1984年(昭和59年)以降で過去最高を記録しました。取得日数も平均11.0日と微増しています。政府は2028年までに取得率70%以上を目標に掲げており、着実に改善傾向にあります。ただ、「本当は休みたいが、なんとなく取りにくい」という空気は、依然として多くの職場に残っています。

一方、アメリカには日本のような法定有給休暇制度が存在しません。連邦法レベルでは有給休暇の付与が義務付けられておらず、企業ごとの方針に委ねられています。米国労働統計局(BLS)の2024年調査によると、民間企業で入社1年後に有給休暇を10〜14日受け取る労働者が最も多く(30%)、勤続年数に応じて増えていくのが一般的です。また、同調査では民間労働者の約80%が何らかの有給休暇制度を持つ企業に勤めています。

制度として保証が薄いにもかかわらず、アメリカでは「休暇は取るもの」という意識が文化として根付いており、取得を遠慮する雰囲気は日本と比べて希薄です。近年はテック企業を中心に「無制限有給休暇」を導入する動きも広がっており、優秀な人材確保のための競争手段にもなっています。

雇用形態——「クビ」になる社会とならない社会

日本の雇用の特徴として長らく語られてきたのが、終身雇用と年功序列の文化です。新卒で入社した会社に定年まで勤め上げることが美徳とされ、転職は「根性がない」と見られる時代が続きました。近年は転職市場も活性化していますが、欧米と比べると雇用の流動性はまだ低い水準にあります。

アメリカの雇用形態は「at-will employment(随意雇用)」が基本です。雇用主も従業員も、原則としていつでも雇用契約を終了できるという考え方で、日本のような強力な解雇規制は存在しません。企業の業績が悪化すれば、大規模なレイオフ(一時解雇)が迅速に行われます。2022〜2023年にかけて、大手テック企業が相次いで数万人規模のレイオフを実施したことは記憶に新しいでしょう。

こうした流動性の高い雇用市場に対応するため、アメリカのビジネスパーソンはスキルのアップデートとネットワーク構築を常に意識しています。LinkedInが日常的なビジネスツールとして機能しているのも、こうした文化的背景があってこそです。

職場のコミュニケーション——フラットか、縦割りか

日本のビジネス文化といえば、敬語・上下関係・根回しが代表的なキーワードとして浮かびます。会議は意思決定の場ではなく「確認の場」であるケースも多く、事前の調整に多くのエネルギーが割かれます。

アメリカの職場はよりフラットな構造が基本です。上司を名前で呼ぶことは当たり前のことで、部下が会議で上司の意見に反論することも歓迎される雰囲気があります。「良いアイデアは役職に関係なく出すべき」という考え方が浸透しており、若い社員が経営幹部に直接プレゼンする場面も珍しくありません。

シリコンバレーをはじめとするテック系企業ではとりわけ、カジュアルかつフラットな文化が色濃く反映されています。

副業・フリーランス——個人で稼ぐことが当たり前の社会

アメリカでは副業やフリーランスとしての働き方が非常に一般的です。マッキンゼー・グローバル・インスティテュートが2022年に実施した「American Opportunity Survey」によると、調査に回答した就業者の36%、約5,800万人が、フリーランス・契約・ギグワーカーなど何らかの独立した形で働いていると回答しています。これは2016年の推計値(27%)から大幅に増加した数字です。

日本でも副業解禁の動きは加速しており、政府が副業・兼業の推進を政策として掲げています。しかし「本業に専念すべき」という価値観を持つ企業や管理職も依然として多く、企業文化の変革はまだ途上にあります。

まとめ——どちらが正解ではなく、自分に合った働き方を

日本とアメリカの働き方を比較してみると、優劣があるのではなく、それぞれの社会構造や価値観に根ざした「違い」があることがわかります。成果主義と流動性を重視するアメリカ型と、関係性の構築と安定を重視する日本型、どちらも一長一短です。

大切なのは、他国の働き方を知ることで自分自身の働き方を問い直すきっかけにすること。グローバル化が進む現代において「当たり前」を疑い、より良い働き方を模索し続ける姿勢が、個人にとっても組織にとっても重要になってきています。

参考文献

OECD「Hours worked 指標ページ

厚生労働省「令和6年就労条件総合調査 結果の概況

U.S. Bureau of Labor Statistics「Who receives paid vacations?

McKinsey & Company「Freelance, side hustles, and gigs」2022年